こんにちは!
映画『TAR/ター』を見たのでレヴューします。
いやー手強い作品です。
正直言ってみた直後の感想としては「意外とふつう、ていうかよくある話じゃね?」
と思ったのですが、なんだかんだでその後もなんとなく頭から離れず、折に触れて、というほどでもありませんがこの作品について考えてしまうのです。
というのも、これは女性マエストロの話だから今の物語になるのであって、これが普通に(というとポリコレ的にアレかもしれませんが)男性マエストロの話であれば先に書いたようにまあよくできた普通の話にしかならないわけなのですがそこがこの映画のキモになっているのですね。
なんと言ってもケイト・ブランシェットがまあ圧巻であります。もう「当たり役」どころの話ではないです。まず彼女がいなければこの映画はあり得ない、存在し得ない。『タクシー・ドライバー』のデ・ニーロ、『七人の侍』の三船敏郎、『ジョーカー』のホアキン・フェニックス、ゴダール作品のJ.P.ベルモンド。いろいろありますがそういう存在感です。彼女の演技、というか存在を観に行くというだけでも劇場に足を運ぶ価値はあるでしょう。
これがオスカーを逃したというのも少し首を捻りたくなります。主演女優賞はエブエブでしたか……うーん。
先ほど女性マエストロであることがこの映画のキモであると書きましたが、それはそうとしてももちろんそんな単純なことではなく、何重にも練られた非常に精緻な脚本になっており、単純にジェンダーの問題とも言えないし、オーケストラという舞台、芸術という題材、様々な場面における現代という状況に突きつける問題提起。いやーこうやって書いているだけでも実によくできていると思わざるを得ません。極端なことを言ってしまえば、現代における映画表現そのものに対する挑戦作とすら言えると思います。
少し大袈裟になりましたが、全くの意欲作、傑作だと思います。早くも2023年のベストに挙げる人がいるのもまあ納得ですね。機会があればもう一度見たいくらいです。ぼくぐらいの観客レベルだとまあ一回で理解できるようなものではない気がします。そういう映画って本当に貴重ですよね。観られてよかったです。